1973年からの復活。


「Sizwe Banzi is Dead」(シズウィ・バンジは死んだ)
@ Lyttlton Theatre in National Theatre
19 March 2007, 20:00

By Athol Fugard, John Kani,and Winston Ntshona
Cast John Kani and Winston Ntshona


キンダイシュラン《★★★★★》


1973年、南アフリカアンダーグラウンドで作られた、
アパルトヘイトの芝居です。
それが、オリジナルのキャストのまま、ロンドンで再演しました。
ナショナルシアターで今日から二週間だけです。



初演から34年。
足の弱ったWinstonとまだまだ元気なJohnのコンビがやってくれました。


一月にピーターブルックのやった同じ名前の芝居を見たのだけど、
いわば、今日見たのがオリジナル。
ブルックの作品は切り貼りされてて大幅な変更はなかったものの、
オリジナルとはまったく雰囲気の違うものとなっていることが、
今日わかりました。


ブルックの話はたしか過去の日記で書いたのでそっちを参照ください。



で、今回は1973年のオリジナルキャストでそのまま再演です。

まずはあらすじ

舞台は南アフリカアパルトヘイトの頃。
黒人たちは身分証を持っていないといけなかった。
ある日Sizwe Banziはその身分証に判を押されて、
街にいられなくなった。
相談のために友人のBuntuをたずねるが、どうにもならなかった。
夜、二人は死体を見つける。
その死体の身分証には街での労働許可の判が押されてある。
BuntuはSizweの身分証と死体の身分証の写真を取り替えてSizweに渡す。
偽造身分証でしか他に生き延びるすべはなかったから。
SizweはRobertにならなければいけない。
Sizwe Banziは死んで、Robert Zwelinzimaになる。
じゃあ、それまでの自分は一体どうなる?
体はそのままで、名前が変わったら、そのアイデンティティはどうなる??


という話です。
アイデンティティの話になりますが、
そうでもしないと生きていけないアパルトヘイトの頃の話です。


笑わせて、泣かせて、考えさせるすばらしい芝居でした。


この芝居の前半、Stylesさんという写真やさんの一人台詞が
ずっと続くのですが、
このキャラクターを演じるJohn Kaniがすごいです。
なんてパワフルな人だと、感心してしまいました。
ずっと見続けてしまう魅力が彼にはあります。
彼は一人でBuntu役も演じます。


休憩なし、ぶっ通しの1時間半です。

良かったこと3つ!

何より良かったのは、この芝居で南アフリカの息吹というものを感じることができるということでした。
二人とも南アの人なので当たり前なんですが、

  • たとえば時々出てくる南アの言語。
  • 教会でのパワフルな牧師。
  • 警察の黒人に対する仕草。

もう、目の前にまるでその人がいるような、
まるで見たことのないその仕草を、Johnはまるでその人であるかのように演じ切ります。
というか、「それまで自分はそうやってやられてきた」というかのごとく、
細かい仕草をことごとく演じていきます。
すごかった。


まず言語。
アフリカの時々あるのですが、南アの言葉には舌を「コロッ」と鳴らす音が入るんです。
舌を硬口蓋に当ててから、はじくようにして舌を引き、勢いよく下あごにぶつけます。
これを見事に見せてくれました。うれしくて仕方なかったです。


次に教会でのパワフルな牧師さん。
これはSizweが偽造の身分証に馴れるようにと訓練するシーンで、
「日曜日は教会だ」とかいってBuntuが牧師さんになりきって、
Sizweに名前とIDナンバーを聞く練習をするんです。
そのときにBuntuのやる牧師さんは明らかにハイテンションな
マーティン・ルーサー・キング牧師でした。
あまりのキング牧師ぶりに泣きそうになりました。
キング牧師ではなかったのかもしれないけれど、
黒人の牧師というものが垣間見えたような気がしました。


ちなみにピーターブルックの作品の牧師はどちらかというとカトリック系の歌い上げる感じの牧師でした。


黒人牧師独特の叫ぶ説教を生で見たような気がします。
あの必死に祈る姿勢、呼びかける声、しゃがれた悲鳴は
なんだか、本物を見たような気になりました。



最後に白人の警察が黒人に対する仕草について。
このシーンもBuntuがSizweに練習させるシーンです。
Buntuは警察のマネをしてSizweから身分証を奪います。
と、警察がするのは本当に酷かった。
まず右手で身分証を受け取り、左手に持ちかえると同時に右手を自分のわき腹のシャツでぬぐいます。
で、ぬぐった右手で身分証を持ち、今度は左手をわき腹でぬぐいます。
そうしてはじめて身分証を開くんです。
ちょっとやってみてください。
本当にバッチイものを触ったかのようにやるんです。
しかも自然と。
そして身分証と顔の一致を確認して、身分証をSizweの足元に投げつけるんです。「OK」といいながら。
もう、このゴミ以下の扱い方。
しかも自然とそうしてしまう警察の仕草が胸にすごく刺さりました。


あんまりにもひどいその仕草に、かつて本当にそうやられてきたであろう舞台上の二人に
どうしようもない悲しみというか、哀れみというか、苛立ちというか、怒りというか、
すべてのごっちゃになった感情が出てきました。
「ごめんね」と、言いたくなりました。
「知らなくてごめんね」と、言いたくなりました。


すごくいい芝居です。
本当に良い芝居です。

この芝居を研究できて本当に良かったと思いました。


イギリスにいる人は必ず見てくれと言いたいです。
きっとこの二人がこの舞台上で一緒にやることはめったにないでしょうから。


もう是非。