「エルガーとアリス」をみた。


Elgar and Alice

by Peter Sutton
at New End Theatre
Casts: Gerald Harper
Janet Hargreaves
Katrina Norbury
Joy McBrinn
Directed by Gene David Kirk


キンダイシュラン<★★★☆☆>


いつも紹介するのはWest Endといって、ロンドン中心地の劇場街がおおいのだけど。
今回の劇場<New End Theatre>は
ハムステッドというロンドン北部の住宅地にある小さな劇場です。
FringeとかOff-West Endなどと呼ばれています。
サイトはこちら↓
http://www.offwestendtheatres.co.uk/index.php?where=new_end

イギリスのパブを少し紹介。

隣にものっすごく味のあるパブ‘Duke of Hamilton’があって、
http://fancyapint.com/pubs/pub1310.html
ここで、ものっすごく臭いサイダーを飲みました。
サイダーっていうのは、りんごの炭酸酒。
日本ではシードルと呼ばれてたりしますが。
でもこのサイダーは炭酸無しの‘Still Cider’です。
詳しくは下を。
http://www.westons-cider.co.uk/acatalog/info%5fORosie20L%2ehtml
匂いはバラの匂いもしますが、
なんだかトイレの芳香剤です。
色もなんというか、ほんとうに、あれです。
で、しかもこれがぬるい。


イギリスのホントのパブに来ちゃった
と思いました。
とってもいいパブですが、とってもぬるいです。
もちろん他にも冷えたステラとかありました。
けど、も、手動のポンプからくみ出すビールやエールは
どうしてあんなにぬるいのか、こまっちゃいます。

さてさて、劇場の話を。

客席は84席。
とっても舞台が近くて、舞台のヘリから一列目のお客さんまで、
役者が客の鼻をかむのを手伝えるくらい、近いです。
ホントに手を伸ばせば届く。


そして何よりもイギリスの劇場らしいなあと思ったのは、
いくつかの椅子の裏に名前の書いてあるプレートがうちつけられています。
もう亡くなった常連さんの指定席だったりしたのでしょう。
あるいは、よくここに座っていた役者の名前かもしれません。
こういう一つ一つの椅子に小さいプレートを貼るだけで、
まったく劇場の雰囲気を変えているように思います。
素敵でした。


客層は60歳を超えたじいさんばあさんばかり。
20代の客は僕ともう2,3人くらいでした。
その2割が杖をついて、急な階段を上ったり、狭い客席を見つけて座ったり。

そして「エルガーとアリス」のことを。


なにしろ今回の芝居の主役は作曲家のエルガー
イギリスでもっとも愛されている音楽家といっても、
過言ではないかもしれません。
「威風堂々」が有名な彼と
その妻アリスと、
もう一人のアリス(スチュワートさん)と
メイドのサラをめぐる4人芝居です。


主役のエルガーを演じるジェラルド・ハーパーという人が、
もう、すごかった。
Wikipediaでずるして調べたら、1929年生まれですって。
現在78歳。
劇設定のエルガーは63歳。
いや、78歳にはとても見えない、いい歳の取り方をした老人でした。


話の内容は要するに、
本妻のアリスとエルガーのもとに友達のスチュアートさんがやってきて、
本妻のアリスが嫉妬するという話。


一幕はアリスに音楽の何たるかをエルガーが語り、
それを身をもって理解するスチュアートさんにエルガーが興奮して、
妻のアリスは自分の書いた詩をエルガーに読ませるけど、
なかなかいい返事がもらえなくて、
しまいにはエルガーが誰か違う人へ愛の詰まった手紙を書いているのを発見して、
アリスは意気消沈してベッドに倒れます。


第二幕は妻のアリスが死ぬ日でした。
エルガーがアリスをベッドに寝かせ、
その横のテーブルで手紙を書きはじめると、
不思議なことにアリスがすっかり元気になってエルガーに話しかけます。
「私は、あなたのミューズだった?」と。


第一幕ではエルガーはノリノリで、
「丘を見れば音楽が聞こえてくる、
木のざわめきも風の音もすべてが音楽になる」
と言っていたのにもかかわらず、
実は15年ほど前から、
「木を見ても木しか見えない、丘を見ても丘しか見えない」状態がつづいていたのだと、
アリスに告白します。
さっきまで嫉妬ばかりしていたアリスは一転、エルガーを励まし始めます。
「あなたには才能があるのに。」と。
アリスの存在は決してミューズではなかったけれど、
エルガーを常に励まし助けてくれたのは、詩人であり、ピアニストだった妻でした。
そして、エルガーが誰よりも愛していたのも、アリスでした。


たくさん話して、ベッドに横になるアリス。
そこへやってくるメイドのサラ。
アリスはまた息が荒くなり、呼吸も苦しそうになります。
エルガーは「さっきまで話していたんだ」と不思議がります。
サラは電話に呼び出され、
その間にアリスは一つ大きく呼吸して、亡くなります。
サラが再びやってきて、「スチュアートさんからお電話です」と。
アリスをじっと見守るエルガー
「妻と話しているから出られないと伝えてくれ」
とやさしくつぶやき、天を仰ぎます。
そこへこの曲↓
http://www.amazon.com/gp/music/wma-pop-up/B0000058IB001023/ref=mu_sam_wma_001_023/103-0932559-6285411
エルガー作曲「Salut D'amour」です。


(参照:http://www.amazon.com/Candlelight-Favorites-25-Frank-Morelli/dp/samples/B0000058IB/ref=dp_tracks_all_1/103-0932559-6285411?ie=UTF8&qid=1182213945&sr=1-4#disc_1


この第二幕だけで泣けます。
ホントにズルイ芝居見ました。


途中いくつかエルガーの作った名曲が出てきます。
けどこの最後のシーンは、エルガーというか、
ジェラルド・ハーパーの背中で泣くという、
ホントに貴重な体験をしました。


「ミューズとは?」とか「インスピレーションの枯渇」とか
そういう芸術家の悩みのようなものもちらほらと出てきて、
そして、そういうことがとっても身近に感じました。
ちょっといろいろ考えちゃったなあ。


エルガーが生まれてちょうど150年です。