Happy Days(『しあわせな日々』)を観てきた。


http://www.nationaltheatre.org.uk/?lid=21338

Happy Days by Samuel Beckett @ the Lyttelton Theatre, National Theatre

Directed by Deborah Warner
Sound Score by Mel Mercier
Lighting by Tom Pye

Winnie... Fiona Shaw
Willie... Tim Potter

キンダイシュラン《★★★★☆》


別役実さんの好きな、ベケットの傑作のひとつ。
日本語で読んでみたい人は↓


しあわせな日々・芝居 (ベスト・オブ・ベケット)

しあわせな日々・芝居 (ベスト・オブ・ベケット)

絵がないのが残念ですが、
オレンジ色の背表紙の本で、紀伊国屋書店ジュンク堂で売ってます。


もう、なんといいますか、
おかしい話です。
笑えるって意味のおかしさと、奇妙って意味のおかしさと、混じった話です。
もう、有名な話ということでどんどん話していきますね。




舞台は荒涼とした丘です。荒れ果てた、何もない丘。
劇場に入るとありえないくらいに舞台から生明かりが観客と舞台を照らしています。
音響はよく現代音楽にあるような、ゴー、ゥワ〜ン、ゴーン、みたいな
なんでもない雑音を混ぜて地獄風に仕立て上げた感じ。
もう、なんといいますか、この異様な劇場空間をつくっちゃうベケット
よっぽど芝居が好きだったに違いありません。


上から真っ白なカーテンが下りてきて、なにやらその裏でごそごそとやっているなと思ったら、
カーテンが元に戻ったそこにいるのは、
腰から下が丘に埋まった初老の女性、Winnie。
ちょうどこの写真にいる女性です。写真のままの格好で埋まって寝てます。
強烈なベルがどこからともなく聞こえてきて、
起き上がった第一声が、「今日も天国みたいな日!!(Another heavenly day!)」。
で、この女性が埋まったまま、脇にあるカバンから鏡や歯ブラシを出して身だしなみを整えて、
歯ブラシに書いてある文字を解読したり、
見えないところにいる旦那らしき人(Willie)と会話をなんとかしようとするっていう
そういう話です。


二幕もの、一時間半、休憩込みでウィニーがずっと喋る続ける話です。



どうですか、面白そうですか。面白かったです。


このFionaさんっていう女優さんがとても軽やかなイギリス人で、
表情がとても豊かで、どこか影があって、
きちっと年齢重ねてきた感じとか、大変に魅力のある人で、
日本でいうと、松島トモ子とか岸田今日子とか、そういうポジションにいる感じです。
ちょっとオトボケなんだけど、計算づくの感じというか。


このウィニー役、加賀まりことかがやったら面白いだろうなと思いました。
10年後の大竹しのぶとか、
10年後のすっごく芝居がうまくなった宮沢りえとかがやったりするといいかもしれない。


なんせ、腰から下は埋まっているから動かせるのは上半身、腕と顔、首だけ
上体を後ろにそらすことはできるみたいだけど、向きは常に観客に真正面です。
これで1時間釘付けにしないといけないっていうのは
(もちろん途中にウィリーとの会話があるから気は紛れるけれど)
なかなか大変です。
さらに、第二幕になると、首まで埋まってます。
もう、顔で演技しなきゃいけない。
これはもう、すごかったです。壮絶。


この、第二幕で首に来ているってことはこのまま彼女は埋まって行くわけで、
まあ、その、言っちゃえば、地獄なんだけど、
もうその悲惨な感じとか、ホントにちらっと見せるっていうFiona Shawの力量に感服。


基本は笑える話です。
途中何度かあくびが出たけど、まあ、仕方ない。
上質なベケットでした。星四つ。


そう、日本でベケットの芝居ができないのは、
あるいは「難しい」とか言われているのは、
西洋人が普通に知っているような基礎知識が、日本人にないからです。
これはもう、仕方ない。
故事成語とか諺とか日本の神話とか日本史とか、いろいろ知って笑えるネタがあるように、
聖書やシェイクスピアアリストテレスギリシャ神話やダンテの神曲で笑ってるだけです。


もし僕がやるんなら、知識じゃないところでもっとわらかしていこうと、思いました。
脚本の解釈は演出家や翻訳家や大学の先生に任せて、
僕らは役者さんの面白さに浸ればいいんじゃないかと。
そんなこと思いました。なかなかいい週はじめです。