ピーターブルックの「シズウィ・バンジーは死んだ」の3回目。


Sizwe Banzi est Mort


at The Pit, Barbican
11 May 2007


キンダイシュラン<★★★☆☆>


ホントにピーターブルックが頭から離れません。
たぶん、一生研究する勢いで、僕はブルックさんの話をし続けるような気がします。


で、見てきました、今日。
バービカンでやっていた、
「Sizwe Banzi est mort」


パリで二回見て、
今回はバービカンなのです。
場所は違いますし、
フランス語もあまり通じない環境で、
最後見た一月からもう4ヶ月が経っていて、
そこで何が変わっているのかとか、いろいろ見ていました。

今回は英語字幕がついていたので、
パリで見たものの、一体何を話していたのか
わからなかったことの確認もあったりして、
本当に有意義な観劇とあいなりました。



で。

なんだか、ちょっと裏切られたというか、
自分の先入観の恐ろしさを見せ付けられてしまいました。


ピーターブルックは、観客とのつながりを大事にする演出家です。
また、今回の芝居もまた、
脚本に観客に直接話しかけるところがあったりして、
客とのコミュニケーションが一つの大きな特徴だったりするんです。

パリで見たとき、大して受けていなかったところもあったり、
笑いも起きなかったようなところでも、
きっとイギリス人は笑うだろうと思ってました。

また逆に俳優たちも、途中英語を入れたりして
客をくすぐるのかと思っていました。
せめて、最初に出てきて役者が挨拶するのだけど、
そこは英語でするかもしれないと、
なんというか、イギリスの観客にこびるのではないかと、
そう思ってたわけです。


が。
イギリスの客も俳優もたいしたもんです。

まず、俳優が入ってきて、挨拶。
「アロー(Allo)」といって、お、英語話すのかと思いきや、
フランス語でやりました。
ずっと、フランス語。
で、しまいには俳優が、
「Compris?(わかった?)」と聞くと、
観客も、「Oui!」と答えました。
ホントかよ!


ちょっとイギリスの観客をなめてました。
あの中で、字幕なしで舞台の俳優の言っていることが
わかった人はどれくらいいるのだろうかと、
半信半疑で芝居を見てました。


俳優さんたちもフランスで見たときよりも
ちょっとだけぎこちなかったです。
なんというか、フランス語で話すけれど、
その言葉をわかって欲しい気持ちで
舞台ではなしていたように思います。
すごくゆっくりと、正確に、「私はあなたたちに話しかけているんです」とでもいうような感じで、俳優からの圧力を感じました。


僕も字幕を見ていたからでしょうか、
パリで見たときのようなグルーヴは感じませんでした。
これが言葉の壁なんでしょうか。
「Oui!」と答えた観客たちは、一体何についてわかったんでしょう?


カーテンコールは3回続きました。
ヒューヒューと口笛を鳴らす人や、
whoo!と叫ぶ人たちもいる中で、
二人の俳優の顔はあまりすぐれませんでした。
「これでよかったかな?」と確認しあっているようでした


パリの劇場で見たときのクライマックスに登りつめるあの疾走感や
ずしっとのしかかる主人公の悲劇は影を潜め、
ただただ、ピーターブルックの芝居を見たという
観客たちの満足感だけが、
あの劇場空間を占めていたような気がします。


パリであんなに泣けた芝居で、今回まったく泣けなかったのは、
英語の字幕を読んでいて芝居に集中できなかったからでしょうか?



ピーターブルックの意図は一体どこにあるんだろう。
観客と芝居のコネクションや
観客の意識、俳優の意識、
芝居そのものが持つ、
陽子と中性子をつなぐ核力のようなものは一体どこにあるんだろうか?
言語によって消されてしまう程度のもののはずがないと思います。
知ったかぶりも、観客自身の欺瞞も核力になることだってあります。
フランス語のわからないイギリス人は一体何に向けて、
今日の拍手を送ったのだろう?
今日の拍手は、伝統的な、慣習に染まっただけのものだったんだろうか?



ときどき、スターの出ている芝居をみて、
ぜんぜんつまらないのに、拍手だけ妙に大きなときがあります。
あれだったのかなあと思うと、なんだかちょっとつまらなくなります。
もしかしたら、僕だけつまらなくて、他のみんなは本当に面白かったのかもしれない。
カーテンコールのときのあの妙な疎外感は、なんだったんだろう。
僕一人だけが、つまらなかったと思っているのか、
それとも、嘘がつけなかったのか。


楽屋であの二人はどんな話をして今日の舞台を振り返っているのかな。
「いやー、今日はやばかったね」といってるのか
「イギリス人の客はわかってるのかな」といっているのか
「いや、今日はやってて面白かった」といってるのか。


パリで見てたぶん、なんだか拍子抜けした
今回のSizwe Banziでした。



もう一回、17日に見に行きます。
あと、26日にも千秋楽を見に行きます。
17日はポストトークもあるらしいので、楽しみです。