いいリアリズムの演劇。~Gaslight~


Gaslight
by Patrick Hamilton

at The Old Vic Theatre


キンダイシュラン<★★★★☆>


ガーディアンのレビューはこちら↓
http://arts.guardian.co.uk/theatre/drama/reviews/story/0,,2103854,00.html


いやぁ、面白かった。
第一幕が終わって休憩に入る時にゾクゾクして
「ひゃぁ!」といってしまいました。
一人で。

やっぱりロンドンに来たらミュージカルもいいけど、
日本で「新劇」と言われてしまうような芝居を見るべきだとホントに思います。
チェーホフイプセンなどの19世紀から20世紀にかけて
どんどん出てきた芝居は、ちゃんとやりさえすれば、今もなお面白いです。


日本人が翻訳劇をやると何かおかしいのは、
それは、大正ロマンの頃の話を
着物着た西洋人がやると違和感があるのと同じです。きっと。
やっぱりヴィクトリア調のコルセットを着る人の顔は
どこか西洋の香りがしたほうがいいっていうものですから。
もちろん、日本人にはそういう違和感を補ってしまう素敵な想像力を持っていますから、
だからこそ、新劇というジャンルができたり、
宝塚という少女漫画の世界が出来上がったりするんでしょうけれど。


それにしても、面白かったです。

まずはGaslightのあらすじを。


時代設定は1880年。ロンドン。
主な登場人物はとあるアパートメントに住むマニンガム夫妻。
あまり仲はよくありません。
メイドが二人いて、一人は中年のエリザベス、
もう一人は19歳の若いナンシー。


ここ最近、不思議なことに身近の物が無くなる。
今日は壁にかけてあった絵がない。
妻のベラは3ヶ月前にあげた首飾りを失くす。
さらには午前中に用意しておいたはずの小切手までがない。
すべて妻が、どこかに知らぬ間に隠しているのではないかと言って、
ジャックは叱りとばすのですが、
当のベラにはまったく心当たりがありません。
怒り狂ったまま外出する夫を見送って、
妻のベラはただただ途方にくれます。


と、そこへ、まったく見ず知らずの老人がベラに会いにやってきます。
老人は、退官した刑事で、20年前に起きた未解決の殺人事件をまだ追っていました。
ベラはいぶかしがりながらも、
自分の住んでいるアパートメントの不思議な現象を話します。
「寝ているとき、天井から足音が聞こえてくるんです。
何か探しているような感じで行ったり来たり。
あと、夫が帰ってくる前には必ず部屋のガス灯の明かりが少し暗くなるんです。
天井から足音が聞こえてくる時も、そういえばガス灯が暗くなるんです。」


そして老刑事はベラに伝えます。
「殺人の動機は、被害者の持っていた宝石です。
現場はひどく荒らされていたが、宝石は盗まれないままひっそりと隠されていました。
そしてこの部屋こそが、その殺人現場なのです」


もうね、話はばっちりわかるんです。
けども、そこまでもっていくうまさ。
スリリングな、ゾクゾク感。いやぁ、参った。
ホントに、ひゃぁ!です。


最前列の席を学生割引で12ポンドで見れました。
最前列っていう迫力もあってか、
あんなにゾクゾクしたのは久しぶりで、
もう、ゾクゾクしか言えないです。

すごかった。


舞台の美術は、すべて19世紀末の品物で揃えてあって、
暖炉には本物の火が燃えています。
メイドを呼ぶベルは、壁に沿って垂れている細長い布を引っ張るようにできています。
当時の生活をそのまま持ってきたかのような舞台美術。
本物の銀食器に、陶器のティーカップ
そこに本当に注ぐお茶。角砂糖、マフィン。
衣装もちょっといぶされたような色の布を使った豪勢なドレス。


お金をかけてつくったのか、
それとも、もったいないから19世紀からずっととって置いたのか、
とにかくもすべての家具がホコリ臭くない、生き生きとしたものでした。
そしてそこに生きる人たちのちょっとした仕草。
何気ないタバコの吸い方一つをとっても、さまになる感じ。


こりゃ、日本人は真似しようったって難しいわ。
と、心底思いました。
日本人だからこそできる芝居を見たいなあと思いました。
女の一生とかなのかな。放浪記とか。