Rent -remixed- をみてきた。

RENT -remixed-

@Duke of York's theatre
Book, Music, and Lyrics by Jonathan Larson
Directed by William Baker


キンダイシュラン<★★★★★>


まずは映画版のオープニングを。

これを、今回は William Bakerという人が、焼きなおしました。
で、このウィリアムさんはどういう人かというと

これを作ったときの、スタイリストで、
カイリー・ミノーグのライブをずっと演出してきた人です。


面白そうでしょう?
面白かったです。

キャストとセット

キャストはすべてロンドンの俳優を使っています。
ロンドンでの注目はモーリーン役にDenise Van Outenという人を起用したことと
スタッフがさっきのカイリーのミュージックビデオを作ったっていうので宣伝してますが、
そんなのよりもなんといっても、この人!
エンジェル役のJay Webb!!

このひと、背がちょっと低くて、筋肉はしなやかで、
バレエを基礎にしてて、ミュージカルをガンガンにやる人で、
金髪で声は高いし、歌はハスキーだし、胸毛は茶色いし、着てるものはヘソ出しのちっちゃいT-シャツだし。
エンジェル登場のいきなりのダンスのシーンはもう圧巻。
まだ駆け出しの感はあるけれど、とんでもなくセクシーです。
アメリカのフェミニンとはちょっと違った、イギリスのゲイ文化を象徴するような役者さんです。
彼がゲイかどうかはさておき、エンジェル役があまりにもハマっていて、びっくりしました。


モーリーン役のデニス・ヴァン=オーテンの登場シーン、
二幕の一番最初のOver the Moonのシーンでは本気で観客席に降りていって客と話したり。
スターっていうのは、ホントにいるもんなんだなあと、思いました。
彼女の登場したときの、(まったく知らないのだけど)「待ってました!」といいたくなる雰囲気や
歌っているときの観客をなにがなんでも引きずり込まずにはいられない引力とかいわれるようなものとか、
そういうものをちゃんと持っている人間はいるんだなあと。


いや、もう、でも、モーリーンよりもエンジェルがいい!


っていうか、このRentは自分もゲイになってしまいそうなくらい、男性陣がすごくセクシー。
マーク役のOliver Thorntonはなんか、
Seasons of love歌っている間に最前列に座っている僕に向かってウィンクしました。
コリンズ(カント)役のLeon Lopez(オフィシャルHP)の包容力ったらないし、
ロジャー役のLuke Evansはレオナルド・デ・カプリオそっくりだけど
さらにたくましさを増した感じで
ベニー役のCraig Steinだって負けじとイイヤツだけど憎いっていう、
ちょうど微妙な線をガリガリやってるし
はー、もう、たまらんです。


舞台のセットは
三方向をレンガ造りを模した真っ白な巨大なパネルで囲んであって、
白いアクリルの床の中心にもう一つ正方形の一段高くなっている舞台があって、
その一段高くなっているケコミのところは蛍光灯の白い光が常に光っていて、
正方形の一段高くなっている舞台の奥に白い長方形の枠が立っていて、
さらに奥にニューヨークの風景によくある非常階段がのびていて、
高さ3〜4メートルのところに舞台を横切るように鉄のベランダに昇れるようになっています。
非常階段はさらに上に昇れるようになっていて、これは劇場の天井へとのびています。


音響もすごくて。
最前列にいたっていうのもあって、低音の音圧がドスドス胸に来ました。
エンジェルが死ぬシーン、これ、ベーカーさんの真骨頂だと思うのだけど
重低音のベースドラムがドスドス鳴りながら、ゆっくりとエンジェルが病魔にやられていって、
すると、
ふと淡い明かりになって階段を上っていく景色で
そのコントラストの激しさに涙腺が一気に崩壊しました。
そこでコリンズの「I'll be your shelter」ってきたらさ、
もうそりゃ泣かないほうがおかしいってなります。

ニューヨークとロンドン

もともとニューヨークとロンドンの間に似ている点はあると思うのだけど、
家賃が払えなかったり、貧乏人が屋根裏に住んでいたり、
創作活動がやりたくて、くすぶっていたり、
冬がすごく寒かったり、クリスマスを祝ったり、
家は全部レンガ造りで。
レントの大まかな設定をロンドンに変えても、
そんなに変わらないのではないかと思うような演出でした。
もちろん、現在の人たちに向けて作ったのだし、ロンドンで作ったものだし、
演じている役者たちも全部イギリス語を喋るし、
どうしたって「これはニューヨークじゃなくて、ロンドンだ」って思っちゃいます。
そういう時に、「リヴィン・イン・アメーリーカ」と歌われた瞬間、ちょっと考えてしまいました。

ニューヨークをよく知る人が今回のレントを見たら、
きっと「これはニューヨークじゃない」というかもしれない。
レントが好きな人っていうのは、たぶん、
ミュージカルが好きな人とで、かつ、ニューヨークが好きな人になるように思うのだけど、
そういう人が今回のレントを見たら気持ちは萎えるかもしれない。
だって、エンジェルだってロンドンのゲイバーで見るような感じだもん。
もっとニューヨークは猥雑で、喋っている英語もRの発音がきつくって、
Waterを「ワラ」(米)っていうか「ウォータ」(英)っていうかの違いなんだけど
それだけでも全然ちがくて。


でもね、でもね
レントの良さっていうのは、その場所がドコだろうと実はあんまり関係なくて。
かつてあっただろうイーストのあたりだろうが、
もう今じゃトレンドの最先端とか言われちゃってて、
治安だってまあまあ良くなっているし。
麻薬の蔓延や、ホモセクシャルの待遇も、エイズの問題も
かつてのものとはずいぶん変わってきているし、
いつか、映画版のレントを見たときのパンフにあったけど、
レントは現代の古典になりはじめてて。
だからこそ、remixedとかできるわけで。


どこでもない場所、それでも僕らが生きている場所っていう
そういう舞台を目の前で繰り広げるっていうのが、このレントの醍醐味で。
「若者よ!少年よ!」って高らかに叫ぶこの雰囲気がレントで。
別にそこで大志を抱かなくてもいいし、何か野望をもたなくてもいいし、引きこもってたっていいんだけど、
ただただ、レントという芝居は「若者よ!」と呼びかけるそのメッセージが
強烈に、鮮やかに、まぶしく表れているんだと思います。
だからこそ元気をもらえるし、ああ、もうちょっと生きてみようかなと思える。


最後、このRemixのRentでは、Finaleを終わったあと、
どのシーンよりも明るい照明のもとでSeasons of Loveを歌います。
死んだはずのエンジェルもこっそりと出てくるんだけど、
観客はその登場を見逃さずに歓迎します。
そのときの役者の顔といったら、もう、あんなにいい笑顔はないっていう表情をします。
最後のソロを歌うのは憎まれ役だったベニー。
それを大歓迎するキャスト。
もちろん観客も納得です。


舞台も見た、映画も見た、というひとも、きっと好きになってくれる芝居だし
舞台も映画も見ていない、というひとは、人生変えたとか言っちゃう芝居だと思います。


Rent -remixed-
2008年の4月5日までやっています。