舞台化されたカフカの「変身」
劇場版というと、映画だと思っちゃうのは、なんでなんでしょうね。
ライブで実際に俳優が舞台の上に立ってお芝居するのは「舞台版」と言うようです。
つまりその、芝居するには舞台だけで十分だと言うことでしょうね。
映画には劇場が必要で、せめて暗い客席とスクリーンが必要ですね。
てなわけで、
Metamorphosis
@ Lyric Theatre Hammersmith
キンダイシュラン《★★★★☆》
★3つに限りなく近い4つです。
面白かったけれど、何よりすごいのはグレゴール・ザムザの演出です。
グレゴールの部屋だけが上から俯瞰した状態になっています。
つまり、ベッドや椅子やシェードランプが壁から水平に生えてきているかんじです。
よく上から見たベッド、とかいって立って演技するものがありますが、あれです。
で、しかもグレゴールさんはその俯瞰した状態の部屋でまさに上から見たように動きます。
もちろん彼には重力があるので、
ロッククライミングを1時間30分ぶっ続けるというとんでもない演出です。
ベッドから椅子に行くにもまずベッドの縁につかまって、
隣の椅子の背もたれに手を伸ばしてつかまり、
うんていや鉄棒の技を駆使してなんとか椅子に座りますが、
背もたれにつかまった左手で全体重を支えているというかんじです。
途中で床がトランポリンになってぴょんぴょんと跳ぶあたり、
ちょうどグレゴールが虫になっていることを自覚して、
身体をうまいこと動かせるようになったシーンに合っていました。
すごかった。
残念ながらりんごが背中に埋まって腐ってどんどん死んでいくのはできなかったらしく、
最後はちょっとガッカリでしたが。
「変身」を読むたびに思うのは妹の存在で。
あんなにやさしくしようと接してくれている妹がどんどんと疲れて、
しまいにはグレゴールを追い詰めてしまうあたりは切ないです。
にしても、「変身」を舞台化しようとしたこの劇団すごいと思いました。
アイスランドのレイキャビクからやってきたVesturport Theatreという劇団です。
演技もちょっと様式的で、見ていてコミカルな感じが出ていましたし、
そのコミカル具合がありえない状況を浮き彫りにしているようで、
たしかに「変身」を読んだときのおかしな感じにあっていたように思います。
どうも兄が虫になってしまったことへの悲しみはなくて、
ただ漠然と受け入れちゃう。
まるで病気になってしまったかのような虫への扱い方のちょっと不思議な感じに
ギクシャクした動きが重なっている気もしました。
てなわけで、ロッククライミングが好きな人に、おすすめです。
アイスランドの言葉で聞きたかったなあ。
リリックハマースミスで、三週間だけやっています。