オペラ・サロメを見てきた。

Salome
Music:Richard Strauss
Director: David McVicar
Lyrics: German translation of Oscar Wilde's Salome
Conductor Philippe Jordan


キンダイシュラン《★★★★☆》


すごいもん見た。

トイレの前で洗礼者ヨハネは王女サロメの愛を拒んで、
ヘロデ王の前で踊ったサロメヨハネの首を求めて、
素っ裸の処刑者がその首をサロメに渡して
血まみれのサロメヨハネの首をもてあそびながらくちづけをして
ヘロデ王はたまりかねて娘のサロメを殺すよう指示して、
処刑者はサロメをぐらんぐらんとゆすって殺して、暗転。

一時間四十五分の休憩無しのぶっ通しオペラです。


思ったんだけど、エディプス・コンプレックスって、あるじゃないですか。
あれの女性版がサロメなんじゃないでしょうか。


自分の目的のために父親を喜ばせ、母を味方につけ、
自らの愛を拒んだものをなんとしてでも手に入れ、悦に入り、
父親の力によって殺されてしまう
っていう。


あるいは、父親の娘に対する典型的なメタファーなのかな。
自分の愛する娘は他の男を好きになり、
自分は娘をどうすることもできず、
娘の暴走を止めることができず、殺してしまう。
みたいな。

ただ、このヘロデは王様というよりは、先代のヘロデ大王(キリストを殺そうとして町の赤ん坊を全部殺そうとした王様)の息子でして。
このヘロデを取り巻く話もなかなか面白いので、ウィキペディアなどしてみてください。
奥さんと娘によってどんどんダメになっていくヘロデの姿はちょっと同情すら感じます。


シュトラウスの音楽はなんだか、ちょっと退屈になるんだけど、時々ふとした時にすごくきれいな旋律が顔を出すので、そこで気が覚めるといった感じ。
やっぱりオスカーワイルドの力のある脚本に助けられた感じはあります。
でも、あの独特のずっしりとした、世界の終わりみたいな響きは、サロメの世界観そのものって感じでした。
ツァラトゥストラはかく語りき」ででるドーンとした空気を作り出す音楽って、すごいなあ。


イタリアのオペラでよくある、「俺こんなに歌えまっせ!」的なアリアは一切なく、ただただずっしりと差し迫ってくる感じは、きったないトイレや暗めの両サイドからの緊張感ある明かりの演出もあいまって、見終わった観客にも影響したらしく、カーテンコールは短く終わりました。


なにしろ最後の最後で、ヘロデが処刑者に命じてサロメを殺すのだけど
そのサロメが処刑人にもてあそばれる一瞬のイメージがいまでも強く残っていて、
「ブラボー!」とはならなくても、
しっかりとオペラが観客に伝わったことをしっかりと感じるカーテンコールでした。


びっくりした。