現代の魔笛がアフリカからやってきた。


Mozart's The Magic Flute(Impempe Yomlingo)

@ Duke of York's


キンダイシュラン《★★★★★》



いままで見た魔笛の中で、一番興奮した。

魔笛を初めて知ったのは、たぶんアマデウスっていう映画で、
その次にシュツットガルト歌劇場の現代的な魔笛でした。
それからプラハの国立人形劇場でマリオネットの魔笛を見ましたが、
なによりもこのアフリカンにアレンジされた魔笛
何よりモーツアルトが喜ぶ魔笛なんじゃないかと思いました。


演奏で使う楽器はジャンベマリンバ
魔笛の音はコルネット(トランペットかな)。
ところどころアフリカの音楽といえば、って感じでよく出てくる独特の合唱やゴスペル風の歌声が聞こえてきたり。
もちろんキャストはすべてアフリカ系の人々。


なにしろ彼らの身体と、そのからだからあふれ出すリズム、つい体を動かしたくなるドラムと手拍子とが、一気に劇場いっぱいに広がっていきます


魔笛はストーリーを追おうとしても、都合により省略されたり飛躍したりしているところがオリジナルの時点からあるので、そういう楽しみはちょっと横へ置いておいて。
音楽の楽しさと、とにかくその雰囲気を楽しむのがいいんだけど、
今回の魔笛は、魔笛が面白いのは「夜の女王のアリア」やパパゲーノの「パパパパパパゲーノ」だけじゃない、ということをしっかりと示していました。

モーツアルトのとにかくキャッチーなメロディと、アフリカ独特のリズムとメロディがあいまって、本当に、まるで新作のオペラを見ているような気分でした。


出ているキャストはすべてオペラの発声法がきちんと出来ていて、その上でちゃんとゴスペルもちゃんと歌えるというすさまじい連中。


序曲ではマリンバも役者たちが演奏していたりしました。
ちなみにマリンバは一番低いところから高いところまで4つに分かれていて、それぞれが演奏をするのだけど、それを指揮する一人の若者が何より観客の注目を集めていました。
彼はラッパも吹くし、角笛も吹くし、マリンバも叩くし、ジャンベも叩くし、ということで、何でもできる上に、指揮するときの姿が独特で、足を揃えた状態で全身でリズムを刻み続ける彼の姿と、他の演奏者たちの自由に動きながらしっかりと演奏する姿が、ステージの上に堂々と見えているがゆえに、演奏するアクションじたいがオペラの必要不可欠なものとなっていて、
いや、ほんと、すごいんです。


モーツアルトと、アフリカ。
モーツアルトがいたときの最先端の音楽と、現在のイギリスの最先端の一つであるアフリカ文化。


爽快に時間が過ぎていきました。
ロイヤルオペラの魔笛を見るんだったら、そのあとにデュークオブヨークのアフリカン魔笛を見てください。
たぶん、ロイヤルの魔笛より、良いと思います。
しかも半額っすよ。
しかも今なら帰りにただでサウンドトラックもらえますよ。


2008年オリビエ賞最優秀リバイバイルミュージカル賞ノミネート作品です。
たぶん、最優秀ミュージカルというよりも、最優秀オペラ賞になるんじゃないかな。


魔笛の前にやっていたレントが早々に終わってしまったけれど、
きっとニューヨークでレントが出たときの衝撃にも似たものが、
この魔笛にはあるんじゃないかな。


すごいよ。ロンドンにいる間にぜひ見てください。
2ヶ月しかやっていませんので。