2008年の夏、日本に一時帰国したときのこと。


今はもうロンドンにいますが、
ちょっとの間、日本の地を踏んでいました。
東京だけでなく、京都も訪れてみました。
梅雨明け後の猛暑といわれ始めた連休明けに成田に着いた瞬間の、
あのもわっとした感じはやはり日本特有なのかなとおもったりします。


やったこと...
崖の上のポニョ』を見る。
『愛陀姫』を見る。
その他いろいろと友人や知り合いと交友を深めたり、整理する。
9月にロンドンで発表する卒業製作の準備を進める。

ちょっと感想なんかを書こうと思います。

ポニョのこと

ポニョはオープニングがとってもジブリだった。ちょっとトトロのオープニングを思い出しました。
ジブリのオープニングでわくわくするのは魔女の宅急便紅の豚だと思います。
ポニョのオープニングはそこまで期待させるわけでもなく淡々と物事が運んでいくので、
なんというか、絵の面白さに気が行き過ぎてしまったような感じがしないでもないです。
画面全体のすべてが動いていると言われているけれど、見ていてまったくそこに気付かなかったです。
いままでのセル数を超えていると言うのだけど、それをまったく感じさせないのは、えらいことだと思います。
感想としては、一気に見た!という感じ。
まるで読みやすい本をざっと読んでしまうかのような映画でした。
なので、見た後も「あ、みたなあ」というどこか寂しい感じが残ります。
エンディングのあっけなさも手伝って、主題歌がとても浮いて見えました。
あの主題歌にはちょっとバランスの悪い本編で、なんとなく落ち着きませんでした。
でも「この映画を作ったひと」というクレジットの出し方は好きです。

愛陀姫のこと

愛陀姫は、オペラのアイーダを歌舞伎にしたものだということで、わくわくしながら見ました。
舞台転換に多用された長いゴザを立てたような移動式の壁がとぐろを巻いてぐるぐるするあたり、楽しく見ました。人力でないとできないあの微妙なタイミングを合わせるのが大変そうです。
しかも歌舞伎座はなんしろ間口が広いし、舞台にいる人間も多いし、あの転換をみている裏方さんすごい。
美濃のマムシというわけで、あの装置もヘビをイメージして考えられたんでしょうか…。
勘三郎さんが愛陀姫ではなく濃姫をやっているあたりで、あれ、主役は濃姫なのかとおもっていたら、黙秘を続ける木村の裁判のシーンと、その前の濃姫と木村で二人っきりのシーンで一気にその流れになったのを見て、納得しました。
野田秀樹の歌舞伎では、主役が裁判ですごく喋る。
で、喋っても喋ってもどうにもならない流れに愕然とするあたりに、独特の絶望のようなものが立ちあがるように思います。
野田秀樹の裁判のシーンはなんだかいつも見るたびに裁判というものを疑いたくなります。
子どものころわけも分からずよく見ていた「江戸を斬る」をちょっと見たくなりました。


見ててちょっと気付いたのは、自分の心のうちを喋る独白について。
そこまで多くの歌舞伎を見ていたわけではないのであまり確信はないのですが、
ほとんどの歌舞伎に使われている長い台詞は、自分の名乗りだったり、身上を話し相手役に向けて話したりするもので、
西洋風のキャラクター自身の胸のうちを観客へ語るものとしては、なかなか使われていなかったんじゃないかと、ふと思いました。
「しめしめ」というようなものはもともとあるとおもうけど...。
でもきっと、この点が従来の歌舞伎と、野田秀樹後の歌舞伎をわけるいわば妊娠線みたいなものなのかなとも思います。
おおかたの歌舞伎の脚本は、役の状況を説明することでその心情を表していたようにおもいます。
たとえば、「こいつは春から縁起がいいや」っていう独り言は心情は心情でも、状況説明なわけで、「情」景とはよくいったものです。
けれど、愛陀姫では心情をそのまま役が喋っているような印象を受けました。
ストレートな分、ちょっと力が弱くも感じられました。
ゆったりとした歌舞伎のテンポにはやはり多少重たいくらいの台詞が似合うのかもしれません。

と、少し考えたのち思ったのは、
今回の愛陀姫、その場にいない相手役に向けて役者が喋っているシーンが多かったように思います。
あるいは相手役は喋っている役の言葉がまったく聞こえていないように演じられているようにおもいます。
そういう、孤独な台詞が宙を舞っている印象がありました。


斎藤道三濃姫のもともと備えもったストーリー(史実)と、
アイーダの持つストーリーの交錯していく果てに見えてくるある主要な人物が出た瞬間の
「よっ!待ってました!」と、ついニヤリとさせる展開は、さすがだと思います。
史実と架空を混ぜ合わせて、混乱させた上で史実に戻るという作風はやはり野田秀樹お家芸とでもいうべきものだと思います。
こいつはとってもずるい。
たぶん、映画の最後のクレジットに「この作品は実際の事件を基にしたものです」と出るよりも、力を持っているように思います。

てなわけで。

いろいろ感想が出ると思いますが、まずはこれくらいで。
日本にいて、良かったです。